油断をすると日常は瞬く間に消えていく。ふいに、自分が間違った場所に立っているようで不安になる。ついこの間産んだはずの次男は、元気に走り回っているし、妖精みたいに可愛かった長男は、嘘や隠し事をするようになった。そして長女は、もうすぐ私の身長…
生後五ヶ月の次男をようやく寝かしつけて、冷蔵庫からノンアルコールビールを取り出す。私は酒が好きで、今でもアルコールを欲してはいるけれど、妊娠授乳期間はなんとか我慢できている。「この世の中から酒は絶滅し、ノンアルコールビールは唯一残された前…
四十一歳の主婦は物語の主人公になれない。あるいは主人公になれたとしても、アマゾンのベストセラー第一位になったり、ハリウッドで映画化されたりはしない。 息子の七歳の誕生日に、なにが食べたいのかを尋ねると 「ビックベアーズのピザ!」 と即答された…
祖母が猫になった日のことを、私はよく覚えている。あれは何年前だっただろう。私の子供たちはまだ小さくて、あの震災よりも前だから、おそろらく五年くらい前の話。 * 医師との面談を済ませた母が、渋い顔をしながら談話室に戻ってきた。「ばあちゃん、ど…